サクラサイトの違法性は、東京高判平成25年6月19日(判例時報2206号(平成26年2月11日号)83頁)で認定されたことが記憶に新しく、判例時報のほか、下記の判例紹介でも概略を詳しく知ることができます。
このサクラサイトを経済的に支えるというか、仕組みの一つになってしまっているのが、決済代行だったり、電子マネー(サーバー型プリペイド)だったりする現実は存在します。
サクラサイトに対する賠償請求が被害回復に実効性を持たない場合や、そもそも違法なサービスの対価支払に利用させないようにできないか、電子マネー業者はこうした違法なサービスに使われることについて何ら責任を負わないのか、という点が常々問題とされています。
特に消費生活相談の現場では、この点を電子マネー発行会社に対し、申し入れなどをしていたりする部分で、注目の多い点です。
この点の責任を問うた裁判の判決が、判例時報に掲載されていました。
●東京地裁平成27年6月25日判例時報2280号104頁
サクラサイトの利用代金(ポイントの購入)の支払に電子マネーを利用し、かつ、電子マネー発行会社とサクラサイト運営会社の間に決済代行業者が介在していた事例
(
請求棄却)
ここでは「電子マネー発行会社の責任」に関する判断に絞ってまとめてみました。
※電子マネー発行会社が電子マネーを利用した代金決済について「包括加盟店契約」を締結した相手先会社がサクラサイト運営会社との間で電子マネーによる決済の「加盟店契約」をしていた。
原告は「加盟店調査・管理義務違反」を主張し、債務不履行責任又は不法行為に基づく損害賠償の請求をしていました。
判決文で整理されている
原告の主張(法的構成)は次のようなものです。
本件電子マネーに関する契約は、利用者が後日、被告の加盟店から商品を購入し、又は役務の提供を受ける等の場合に、利用者が被告に支払った対価の範囲内で、被告が当該加盟店にその物品又は役務の対価の弁済を行うことを被告に委託する旨の契約と解され、その性質は委任ないし準委任契約である。
そうすると、本件電子マネーの発行会社である被告は、利用者である原告に対して、善管注意義務を負っている。
裁判所は、電子マネーに関する契約上ないしこれに付随する信義則上の義務として、加盟店管理義務が認められるかの判断に先立ち、次の事項を認定しています。
①電子マネーの利用形態、処理手続の具体的態様
②電子マネーの利用規約
③資金決済法のサーバー型の第三者型支払手段
同法上の義務として、購入等できる物品や役務が考慮良俗に違反するおそれでないものを確保するための必要な措置を講じていない法人でないと制約する書面を提出すること
④金融庁ガイドラインⅡー3-3加盟店の管理
⑤電子マネー発行会社が決済代行に関する(包括)加盟店契約の審査にあたってチェックしている点
⑥加盟店契約は、包括加盟店契約をした会社が行うが、電子マネー発行会社は、サクラサイトの運営について、運営会社が行うことを了承し、同様の審査を行っていたこと。
⑦加盟店に対して、苦情の取次などを行い、消費生活センターからの問合せを早期に円満解決するよう求めていたが、即時決済停止や契約解除を行わないでいたものの、高額の苦情案件があったことから、加盟店契約を解除した。
これらの点を踏まえて、
原告が主張する加盟店管理義務に沿う事実の存在を認定してはいます。
しかし、原告の主張する電子マネーの法的構成は採用していません。
それに関わる次の点を指摘しています。
①利用者は、自らの意思で、本件電子マネーによる支払を選択肢、コンビニエンスストアで本件電子マネーの対価を支払って、被告の定める利用規約に従い、決済システムを利用しているに過ぎない。
②前払式支払手段の発行者は、個々の利用者から金銭の預託を受けて具体的な決済代行事務の受任をしているというのではなく、自ら構築した決済システムを利用させて、支払の手段(支払方法の多様化)を提供しているにとどまる。
③前払式支払手段の発行者が得る利益は、電子マネーによる決済システムによる利用料の対価であり、利用料自体の実質は、決済システムの維持管理にかかる事務手数料といえる。
※ 下線は私が付しました。
これらは被告が主張している内容を近接しています。
また、電子マネー発行会社の事情として
①コンビニエンスストアで購入できるような本件電子マネーのような場合にまで、電子マネーの発行者において、加盟店が提供する商品を全て把握することを義務づけることとなれば、資金決済法のもう一つの趣旨である、前払式支払手段の普及、利便性をかえって阻害することにもなりかねない。
②電子マネーの発行者が、日々入れ替わる多種多様な商品を事前にチェックすることは事実上不可能である。
③加盟店に対し契約上、代金決済義務を負っているから、客観的事情を考慮して公序良俗に照らして問題があることが判明した場合か、これに相当すると客観的かつ合理的に判断可能でなければ、加盟店契約を解除することは期待できない。
を挙げて(③の部分は要約しました)、
以上のイで指摘してきたところによれば、前記アで説示したところから、直ちに、本件電子マネーの利用者保護の観点等から、前払式支払手段の発行会社である被告が本件電子マネーの利用者に対し、契約上ないし信義則上、原告主張の加盟店管理義務を負うと解することはできない。
としました。
※ 下線は私が付しました。
電子マネー発行会社と加盟店の関係について、クレジット会社と加盟店の関係に類似している点については、
①電子マネー発行会社が信用を供与して取引を拡大させているのではなく、決済システムを利用させて支払手段を提供しているにすぎない。
②電子マネー発行会社が得る利益は決済システムの利用の対価(その実質はシステムの維持管理にかかる事務手数料)であって、クレジット会社が顧客に信用を供与してその対価=利息を得ることとは本質を異にする。
旨を述べて原告の主張は前提を書いていると判断しました。
電子マネー発行会社がサクラサイトのような違法性の高い業務を認識し、または認識し得たにもかかわらず、加盟店契約を解除しなかったという主張についても、
①加盟店管理義務を否定
②電子マネー発行会社がサクラサイトの運営に関与ないし関係していたなどの特段の事情は認められない
としてやはり否定しました。
消費者には厳しい判断だったと思います。
なお、判例時報のコメントには、電子マネーによる決済代行についての法律構成に関して、増田晋『電子マネーをめぐる私法上の諸問題』 金融法務事情1503号45頁が紹介されています。
控訴されているようですので、地裁の単独部の判断のほか、高裁の判断もみてみたいところです。