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2012年9月2日日曜日

サイバー刑法

1.サイバー刑法の名称

 「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」が正式な名称なのですが、法務省の「Q&A」の中で、「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」(サイバー刑法)」と、括弧書きながら「サイバー刑法」としっかり書かれています。

このサイバー刑法について、いくつかメモ。

(1)成立 平成23年6月17日

(2)法文
  ●法務省:国会提出主要法案第177回国会(常会)
   「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」のページ
   このページで、Q&A、新旧対照一覧、等々が一覧できます。

  また、「いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪について」(PDF)も公開されています。

(3)石井徹哉「サイバー犯罪に関する法整備」<第161号コラム>
  (デジタルフォレンジング研究会サイト内)

(4)夏井高人「刑法175条の改正」(Cyberlaw)

(5)川井信之「改正刑法、成立」(弁護士川井信之のビジネス・ロー・ノート)


2.参考資料【追記あり】 

(1)吉田雅之「法改正の経緯及び概要」(ジュリスト1431号58頁)

(2)今井猛嘉「実体法の視点から」(同66頁)

(3)池田公博「電磁的記録を含む記録の収集・保全に向けた手続の整備」(同78頁)

(4)加藤敏幸「改正刑法175条とサイバーポルノについて


3.メモ

 夏井先生のブログでも紹介されていますが、この「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律」では、刑法175条の改正も行われています。
第175条
1 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
(1)頒布

 今井猛嘉「実体法の視点から」(ジュリスト1431号71頁)
「電磁的記録その他の記録〔の〕頒布」とは,不特定又は多数の者の記録媒体にこれらの記録を存在するに至らしめる行為であると解される。すなわち「頒布」とは,この種の記録を不特定又は多数の人に対して拡散させ,その相手方をして,これをある程度継続的に保存させる行為を意味し,記録「物」の所有権の移転を伴わなくとも,頒布に該当することになる。
この伝統的な「頒布」概念は,(わいせつな有体物を対象とする)改正後の 175条 1項前段では維持されている。しかし,同条 1項後段では,わいせつな電磁的記録という無体物を対象とするため,その「頒布」の意義は,前段のそれとは異なって理解されることになる。すなわち,わいせつな有体物については,その譲渡,賃貸等が「頒布」であり,電磁的記録等については,当該電磁的記録等を,相手方の記録媒体等に出現せしめることが「頒布」に該当することになる
もっとも,電磁的記録の「頒布」においても,当該電磁的記録を不特定又は多数の者の下で記録させる意図で,これを送信等する必要がある。このような意図を欠く単純な送信は,「頒布」に該当しないのである。また,わいせつな電磁的記録を電気送信するが,これが受信先の記録媒体において,ある程度永続的に記録ないし管理されない場合には,やはり「頒布」には該当しないことになる 26)

26) したがって,例えば,わいせつな映像をライブで電気送信したが,受信先ではこれを保存することができない場合には,わいせつな電磁的記録の「頒布」には該当せず,公然わいせつ罪(刑 174条)が成立しうるにとどまる。また,送信情報が,受信先のコンピュータのキャッシュ・メモリ等に短時間,保管される場合は,この種の記録も一定の間,保存されうる以上,電磁的記録(刑 7条の 2)に該当しうるが,コンピュータの電源を切断すると同時にこの記録も消去される以上,当該わいせつな電磁的記録の「頒布」があったと見るのは困難であろう(林陽一「わいせつ情報と刑法 175条」現代刑事法 57号〔2004年〕12頁をも参照)。
※赤字と下線は私が付しました。

【追記】
 「頒布」について、奥村弁護士のブログ記事(2013.6.22付け)を目にしました。
 「不特定又は多数」や「受信元でのある程度永続的な記録・管理」を具体的に考える事例として、大変参考になります。
 奥村弁護士のブログを読んだ後で、ジュリストの解説を改めて読み直したのですが、最初に読んだときにわからなかった意味が今回はわかりました。

(2)併科

 「わいせつ物」と電磁的記録の問題の解決という点は当然押さえなければならないところですが、注意すべき特徴は、①客体(「電磁的記録」)、②対象行為(「頒布」「電気通信の送信」)、のほか、③罰金刑の創設(懲役刑との選択のみならず併科も可能)というところ、です。

 これは「本条所定の犯罪が、利益獲得目的でなされることが多いという実態に鑑みた改正である」(上記今井72頁)とされます。

 実際、わいせつDVDなどの販売により、行為者は相当な利益を得ている事例も多く(報道)、そのためか、罰金の金額もかなり高めな事例(共犯の場合は全員につき)を数件みたことがあります。



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