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2013年3月26日火曜日

権利侵害の明白性と発信者情報開示請求 (メモ)

神田知宏弁護士が、ご自身のブログ(下記)で、発信者情報開示請求において、「東京地裁平成25年1月17日判決で・・・真実と信じるにつき相当な理由の不存在は,権利侵害の明白性の要件でないと判示してもらうことができました」と報告しています。

「真実と信じるについて相当な理由」と発信者情報開示請求(IT弁護士カンダのメモ)

結構大事な論点なので、後々の備忘としてメモするとともに、整理してメモしておこうと思います。

プロバイダ責任制限法4条1項は、発信者情報開示請求の要件として次の2点いずれも充たすことを挙げています(便宜的に法文の表現より短くしています)。
① 権利侵害の明白性
② 損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

①権利侵害の明白性を不要とすべき見解(プロバイダ責任制限法検証WG(第4回会合)資料4の4頁)は、ここでは触れないことにします。

次の点を整理してみようと思います。
~「権利侵害の明白性」の要件として『阻却事由の不存在』を必要とするのか


平成23年7月に公表された総務省「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の「プロバイダ責任制限法検証に関する提言」27頁「4(1)権利侵害の明白性」以下に、次の指摘があります。

提言本体→(PDF
イ 「権利侵害の明白性」と違法性阻却事由不存在の関係
 (中略)
「・・・「権利侵害の明白性」に関し、違法性阻却事由の不存在を含むべきではないと考えることは適当ではないと考えられる(ただし、真に権利侵害がなされたか否かについては、発信者の主張立証を確認しなければ判断できないことからすると、プロバイダ等と被害を被ったと主張する者との間において要求される「権利侵害の明白性」については、損害賠償請求等で求められる「権利侵害」があったことと同程度の立証まで求められるわけではないと考えることもできる。)。
なんだか突っ込み不足のような不思議な印象を受けました。 ただ、この提言の末尾には、発信者情報開示請求に関する裁判例を網羅的に紹介する資料がついていて(これは大変便利)、裁判例の中には、もう少し突っ込んだ点まで争点になっていたものがあります。

例えば東京地判平成17年8月29日(判タ1200号286頁)は、名誉毀損事案において
「被害者は、この権利侵害要件につき,当該侵害情報によりその社会的評価が低下した等の権利侵害に係る客観的事実はもとより、その侵害行為の違法性を阻却する事由が存在しないことについても主張、立証する必要があると解するのが相当である。」
とする一方で
「名誉毀損行為についてみれば、・・・その事実を真実と信じるについて相当の理由があるときは、故意又は過失がなく、不法行為の成立が否定されると解されるところ、被害者は・・・上記のような主観的要件に係る阻却事由の不存在についてまでのの主張、立証責任を負担するものではないと解するのが相当である。」
としていますが、この点は「提言」で触れられていませんでした。


神田弁護士が紹介されているように、法4条1項2号の「正当な理由」は、例えば請求権発生要件として主観的要件を不要とする場合の権利行使にも肯定され、そのことに異論は出ないはずなので、それを踏まえて1号と2号とを整合的、統一的に説明しようと試みるならば、神田弁護士のブログでの指摘の方が問題点の把握がしやすいです。

神田弁護士が獲得された裁判例が公刊物に載ったときは、ぜひ拝見したいですね。




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