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2013年6月22日土曜日

民法9条但書(民法改正での議論)

一ヶ月ほど前に書いた「日用品の購入その他日常生活に関する行為(民法9条但書)」という小さいな備忘録の記事に、キーワード検索が数件あったようなので、こんな記事にアクセスするキーワードってなんだろう、と参照元の検索エンジンをつらつら見てみていたら、債権法改正に関する議論で、意思能力のことが取り上げられていて、その過程で「民法9条但書」の問題の議論をみつけたので、メモします。

ついでに、中間試案もメモしました。

1.設定されていた問題点と議論
 ~意思無能力と民法9条但書

法制審議会民法(債権関係)部会第10回会議(平成22年6月8日開催)

第2 意思能力
 1 要件(意思能力の定義)
(関連論点)
 日常生活に関する行為の特則
 現行民法は,成年被後見人及び被保佐人がした行為のうち,日常生活に関するものについては,例外的に,行為能力の制限を理由として取り消すことができないとしている(同法第9条,第13条参照)。他方で,現行民法の解釈上,「日常生活に関する行為」であっても意思無能力を理由とする無効主張は可能であるという立場が有力である。
 しかし,意思能力を欠いた状態でされた意思表示であっても,「日常生活に関する行為」に当たる場合には,当該行為を確定的に有効とすべきであり,そのことを明文化すべきあるという考え方がある(参考資料1[検討委員会試案]・25頁)。この考え方は,「日常生活に関する行為」について,意思無能力を理由として法律行為の効力を否定することができるとすると,特に成年被後見人の行為については,意思能力を欠いた状態で行われた行為かどうかが常に問題となるため,取引の相手方にとっては法律行為の効力が不安定になり,成年被後見人自身が日常生活に関する行為を行う必要性に対応できなくなるおそれがあることを理由とする。
 もっとも,この考え方に対しては,意思能力を欠く状態で行われた意思表示の効力を確定的に有効とすると,表意者の保護が十分に図れなくなるおそれがあると指摘されている。例えば,日常生活に必要な物品の売買契約を,不必要であるのに異なる相手方との間で繰り返すような場合には,個々の売買契約はそれぞれ日常生活に関する行為に当たると考えられるため,表意者の保護が図られないことになってしまうという指摘である。
 以上を踏まえ,前記のような考え方について,どのように考えるか。
※ 赤字と下線は、私が付しました。

間引くと、どうもわかりにくくなってしまうので、少々長いですが、設定された問題の中身を正しく理解するため、全文引用しました。


・第10回会議の議事録(PDF版)17頁以下

いくつも発言があり、しかも、どれも重要だと感じてしまって、絞ることにに躊躇も覚えましたが、次の4つに絞ってメモすることにしました。
●岡田委員
日常生活に関する行為について先ほどパンを買うとかいうお話が出ましたが,毎日毎日の食料品を買うだけなのか,それ以外の日常生活に関する行為,例えば実際には布団だとか浄水器だとか,そういう契約のトラブルがとても多いのですが,そういうのは含まないのかによって,全然違ってくるかと思いますが,成年後見制の中で日常生活に関する行為については,被後見人も単独でできることになっていますが,現場では大変苦労されていると聞いています。また消費者問題でいいますと成年後見人が付く割合が大変少なく,明らかに付かなければいけないレベルなのに,一人で生活しているという人が多いものですから提案にあるように確定的に有効というのは是非やめていただきたいと思います。
●潮見幹事
それから,四点目は,日常生活に関する行為の特則の部分なのですが,一点だけ気になりますのは,検討委員会試案のコメントに付いていたと思いますが,日常の生活に関する行為を当事者を別として数々繰り返して行うといった場合に,日常生活に関する行為の特則という形でこの規定を設けたとき,もちろん,これは別の制度,ルールで対処するという可能性はあるのでしょうけれども,果たしてそういうのでいいのかということが,問題としては残っているのではないかと思います。その部分は,少し慎重に検討をされたほうがよいと思います。
●道垣内幹事
岡田委員がおっしゃったことは何か少し分かるような気がしまして,それというのは,成年後見制度が発動されている場合の9条ただし書それ自体にも問題があるとお考えでしょうが,成年後見人がついているという場合には,一定のコントロールをしているということが考えられるので,9条ただし書の規律でもよいかもしれないのに対して,成年後見の発動がされていないで,意思無能力状態にある場合にはそういうコントロールもないので,日常生活に関する行為というものに関して,特則を認めるのはよくないだろうということだろうと思って伺いました。
●松本委員
この問題を考えるときに,成年後見制度と意思無能力制度をどう関係させるのかという部分を少し考えておく必要があるのではないか。つまり,成年後見に早く移行すべきなんだけれども,時間的に間に合わない人を意思無能力という形で救済をするというつなぎの制度として考えるのか,それとも,鹿野委員がはっきりおっしゃっていたと思うんですが,現在の制度はかなり問題がある,特に日常生活に関する行為は問題があるんだという認識のもとに,意思無能力のほうをうんと拡張していく形で,制限行為能力との重畳適用も構わないとして,意思無能力でもっと処理しようという方向なのかという話ですね。そこをどちらで考えるかによって,効果にしろ,要件にしろ,少し違った位置付けが出てくるのではないかと思います
※ 赤字は、私が付しました。

ここでの議論は、あくまでも意思無能力を無効としつつ、「日常生活に関する行為」に当たる場合には,確定的に有効として、明文化すべきか、という点でした。

前回の記事で取り上げた、現在進行形の成年後見事務にとっての課題である、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」(民法9条但書)とは何か?に対する答えを議論するものではありませんでした。
その点は、少々期待しながら読んでいたので、(メインテーマではないので仕方のないことですが)残念ではあります。

ただ、「現行の民法9条但書は、そもそも問題のある規定なのだ」という見解があることを知ることができました。

部会の議事録を読んで、なかなか議論を頭の中で整理できないでいたところ、最後に松本委員の発言をみて、少しスッキリしたところです。


2.中間試案

「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」(平成25年2月26日決定)

 ・ 【参考】民法(債権関係)の改正に関する中間試案(平成25年5月2日補訂)

 ・ 【参考】民法(債権関係)の改正に関する中間試案(概要付き)(平成25年5月2日補訂)

 ・ 【参考】民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明(平成25年5月2日補訂)

本年公表された中間試案では、次のように整理されていました。
第2  意思能力
 法律行為の当事者が,法律行為の時に,その法律行為をすることの意味を理解する能力を有していなかったときは,その法律行為は,無効とするものとする。
 (注1) 意思能力の定義について,「事理弁識能力」とする考え方や,特に定義を設けず,意思能力を欠く状態でされた法律行為を無効とすることのみを規定するという考え方がある。
 (注2) 意思能力を欠く状態でされた法律行為の効力について,本文の規定に加えて日常生活に関する行為についてはこの限りでない(無効とならない)旨の規定を設けるという考え方がある。
この点に関する「補足説明」10頁。
反対の多かった意思無能力でも日常生活に関する行為は有効とする特例は設けないということに、中間試案では落ち着いたようです。
5 意思能力を欠く状態にある者が日常生活を営むことができようにするため,民法第9条ただし書,第13条第2項ただし書と同様に,日常生活に関する行為は意思能力を欠く状態でされても有効とする旨の規定を設けるという考え方があり,これを(注2)で取り上げている。民法第9条ただし書等は,制限行為能力者の行為について,自己決定の尊重及びノーマライゼーションの理念(障害のある人も家庭や地域で通常の生活をすることができるような社会を作るという理念)に基づき,制限行為能力者が日常生活を送ることができるように設けられた規定であるが,日常生活に関する行為を自ら行う必要性は意思能力を欠く者についても同様にあてはまるという考え方である。
 しかし,民法第9条ただし書等は,平成11年改正の立案担当者によれば,成年被後見人が日常生活に関する行為をした場合でも,意思能力がなかった場合はその行為は無効であるという理解を前提に立案されており,学説も同様の理解に立つ見解が有力である。また,意思能力を法律行為ごとにその意味を理解する能力と捉えるのであれば,現に日常生活に関する行為を行った者がその意味すら理解する能力を欠いていたと言える場合は稀であると考えられる。
 このように,日常生活に関する行為であっても意思能力すら欠く状態で行われた場合は無効であると考えられていること,日常生活に関する行為が意思能力を欠く状態で行われることは現実にはまれであると考えられることから,意思能力については民法第9条ただし書のような規定を設けないという立場を本文に記載し,日常生活に関する行為の特例を認めるという考え方は,注記するにとどめている。
※ 赤字と下線は、私が付しました。



(参考)
・民法(債権法)改正検討委員会編
  「詳解 債権法改正の基本方針Ⅰ序論・総則」(商事法務)号86頁以下。

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